2019年12月第159号|4-1|あきない遠眼鏡(とおめがね)~荷積み荷下ろしは休憩?それとも副業?|

私が所属する社労士の陸送研究会でよく引き合いに出される話がある。運送業では連続運転時間の管理という規制があり、4時間走ったら30分休憩しなければいけないというルールがある。ルート配送(例えばコンビニの配達、集荷)という仕事はきついという話が出る。なんとなれば店舗間を走っているときにはタコメーターは運転時間を記録するが、店での荷下ろしはエンジンが停止して荷積みをするためタコグラフ上は止まっているのといっしょ。だからこの時間を記録上は休憩をとっていることにしてしまえという話がある。運転手からすれば車を停めてのこの時間は肉体作業で体がきつい。実感からすればハンドルを握っているときの方が休まるということらしい。休憩をしていないのに休憩とするのは違法だが、現実はそうらしい。

その上を行く事態が起こった。Mさんは荷物の積み下ろしに従事していたときに倒れて亡くなった。過労死が認められるかという事案である。Mさんは停車中は別会社で副業していることにされていた。すなわち運転時間は運送業のA社の社員として働かされ、エンジンを止めて荷積み荷下ろしをしているときはA社の関連会社B社の社員として働かされていた。一日のうちA社、B社を何回も繰り返して倒れたことになる。厚生労働省の見解によれば過労死の認定にあたってB社はMさんにとって副業だからこの副業の労働時間だけを通算すればいいという。労災申請は却下された。最終的に遺族と同僚ドライバーの証言で、ひとつの会社が便宜上、AとBの名を使っただけと過労死認定はされたが、政府が副業をやっきになって推進し、厚生労働省が時間外労働は通算しなくていいと従来の態度を翻しているもとでは、こんなことが普通に起きてくることを憂える。生身の体はひとつしかないのだから。(11月5日の東京新聞より)

 税経センターグループ 顧問 新山 晴美

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